飼い主は犬にとってのマグネットになる!

藤田 りか子

スウェーデンの犬世界でエヴァ・ボッドフェルトさんを知らない人は、いないでしょう。
パピー教室にはじまり、問題行動のコンサルタント、競技会用のオビディエンス・ドッグトレーニング、はたまた、レトリーバーのためのガンドッグ・トレーニングもこなすという、守備範囲の広いマルチ・ドッグ・インストラクター。
犬の心理を読みながらいっしょに「チーム」を作り、そして「協調作業」をしようとする、エヴァさん。その真髄を一つの本としてまとめた
「フォロー・ミー(私についてきて!)」
はスウェーデンのみならず、北欧諸国の犬本の大ベストセラー。ついには、2013年に英語版も発売されました。
スウェーデンの国営放送でも人気のキャラクターになったほか、現在は、ラジオ番組「私のベストフレンド」も担当しています。

さて、エヴァさんの強みは、「こんな問題、どう解決したらいいの!」という会抜い飼い主の悩みを、とてもシンプルにそしてわかりやすいトレーニングで 導いてくれること。
エヴァさんと、ストックホルム、スウェーデンにて(2014年5月)
エヴァさんと、ストックホルム、スウェーデンにて(2014年5月)

ちなみに私の偏見を許してくだされば、こういう言い方をしてみると分かりやすいかもしれません。
多くのトレーナーは確かに「協調」とか「信頼」が愛犬との関係作りのキーとお話ししてくれるのですが、具体的にどういうことか、っていうのが実はフツーの飼い主には、とてもわかりにくい。そう、とても、抽象的だからなのですね。トレーナーは犬のトレーニングが仕事なので、協調とか信頼、という言葉を使いながら、実はちゃんと頭に画像ができている。しかし、飼い主には、その画像作りは、それほど容易ではない。特に、経験がなければないほど!

その点エヴァのインストラクションはとても具体的で実践的 。とにかく実行あるのみ!それが、エヴァのスウェーデンにおける人気の秘密でしょう。彼女の言葉に「マグネット」というのがあります。犬が磁石にでも引きつけられるかのように、飼い主に惹きつけられるということ。これが、実現している、ということ自体が、すなわち「信頼」と「協調」ができている証というわけです。そして、飼い主がマグネットになるコツを、授業の中でたくさんみせてくれます。

エヴァはさらにこうも言います。
「だから、私は、散歩の時も、あまりコマンドを出す、ということをしないのですね。犬をひきつけるにはどうしたらいいか。たとえば、まるで私が地面のトリーツを探し出したかのように振る舞うことで、犬は、『おお、かあちゃん、またおいしいものを見つけたね!』と、私の行動の一部始終に犬の目が釘付けになる、といった具合です」
コマンドでコンタクトを取りなさい、じゃなくて、常に、犬が自分にコンタクトを取ってくれるよう、面白くて、楽しい存在になる。
でも、そんなに、おやつを与えていたら、普通の食事がとれなくなりませんか、という聴講者の質問に、
「じゃぁ、普段の食事を減らして、代わりにこうして散歩の中で与えればいいんです!あなたと犬でいっしょに狩猟に行っている、と思えばいいじゃないですか!」とエヴァは答えています。

そこには、犬と人間がどんな感情をわかちあうか、という考慮も含まれてきます。これは実はすごく大事な部分です。

楽しい感情(犬にとっても人間にとっても。決して人間だけじゃなく!)を分かち合う、というのは、スウェーデンの「出来る」ドッグ・トレーナーが最近よく提唱していることです。今回(2015年)JAPDTに招聘されるイェシカ・オーベリーさんも、この点について強調しているトレーナーの一人です。

一時、カーミングシグナルというような言葉が流行りました。これを知らなきゃ、「現代風ドッグトレーナー」じゃない、みたいな風潮もありましたね。しかし、それは確かに犬を理解することにもつながるし、もちろん犬を理解しなければならないのですが、往々にしてそれだけで終わってしまって、次へのステップがまだ提唱されていない….。カーミングシグなるを知るのはいいけれど、でも、…?

そう、いっしょに楽しい感情をシェアする、というところまでは行っていない。このフィーリングがあって、やっぱり犬はエヴァの言うように「磁力によって」惹きつけられるかのように、人についていく。フォローミー、というわけです。

犬を気持ちよくしてあげる、というだけでいいのなら、犬のマッサージもしかりです。しかしこのシーンでは犬はあくまでも「受動的」です。いつも人間が与えるだけじゃ、犬的感覚として「楽しいこと=人」というのはあまり理解してもらえない。彼らに「楽しいね」を理解してもらうには、やはり犬自身がアクションを起こして、なんらかの形で人間に関わっていなければなりません。その時「楽しい」を経験することで、初めてその感情の出所場所を人と結びつけてくれるのではないでしょうか。

……といったようなことがエヴァの大きなトレーニング哲学だと私は理解しています。
これはエヴァの授業に実際にでてみて、経験してください。ぜひ、ぜひ!

エヴァ先生来日記念
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藤田りか子(Rikako Fujita)

神奈川県生まれ。動物レポーター・ライター・カメラマン。
学習院大学を卒業後、オレゴン州立大学野生動物学科を経て、スウェーデン農業大学野生動物学科卒業。
生物学修士。
国内外のペット・メディアに向けて動物行動学や海外文化についての執筆を続ける。
現在、スウェーデンの中部ヴェルムランド地方の森で、犬、猫、馬たちと暮らす。犬は断然レトリーバー!
2015年9月に来日し、プレイボゥ主催のスペシャルセミナーを開催予定。